うまい酒を造りたいと思っても、日本酒業界独特の慣習が立ちふさがった。杜氏(とうじ)制度である。杜氏は酒造りの専門家であり、酒造りを取り仕切る責任者である。杜氏と、杜氏が自分の仕事を手伝ってもらうために引き連れてくる蔵人(くらびと)のほとんどが農家を兼業する出稼ぎなので、農業ができない冬場だけ酒を造る「寒造り」が通常だ。雇用関係もその期間に限定される。杜氏は閑散期に仕事を得られ、酒造会社は通年雇用する必要がなく、この制度自体は互いのメリットが大きい。
ただし、酒の質は杜氏の力量で決まることとなり、優秀な杜氏を確保できた酒蔵は地元を代表する銘酒を造れるが、その逆もしかりだ。