あるトンネルの主任技師が、トンネルに入る前にこんな標識をだした。
「注意、前方にトンネルがあります。ライトをつけてください」

すると新しい問題が起こった。
トンネルを出て400メートルばかりいったところに、高い場所から広びろと湖を見下ろせる、世界一ながめのよい休憩所があり、そこでながめを楽しんだひとたちは、車にもどったときバッテリーがあがっていることに気づくはめになったのだ。

で、これはだれの問題か。
運転者か、同乗者か、主任技師か、県知事や警官や自動車連盟か。

これを自分の問題としてとらえた主任技師は、出口にスイス的(この話の舞台はスイスなのだ)厳密さによる掲示文面を考えだした。

「もし今が昼間でライトがついているなら、ライトを消せ
もし今暗くてライトが消えているなら、ライトをつけよ
もし今が昼間でライトが消えているなら、ライトを消したままとせよ
もし今暗くてライトがついているなら、ライトをつけたままとせよ」

こんなものを読もうとしたら、車はガードレールにぶつかって、湖の底深くごろごろと落ちていってしまう。

そこで主任技師は「かれらの問題」方式を採用。
運転者たちはこの問題を解決したいという強い動機をもっており、ただちょっと思い出させてやることを必要とするだけのことだと仮定した。

かれらには、「ライト、ついていますか?」といってやれば十分なのだった。

さらに文章はこう続く。
「もし、かれらがそれでは間にあわないていどにしか頭がよくなかったとしたら、かれらはバッテリーあがりよりも、もっと重大な問題にいくらでもぶつかっているはずだ」

こういうものの見方を教わってから、施設や店内の標識に目をくばると、また面白い。

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