私自身も、ストールマンは極端にも程があると考えていた。フリーなソフトウェアで政府の支配や監視と戦う? 世界征服をたくらむ悪の企業? プライベート
な通信を監視するソフトウェア? まあ、そりゃ、フリーでオープンソースなソフトウェアってのは大事だよ。もし非フリーなソフトウェアと同等機能を提供す
るフリーなソフトウェアがあるならば、もちろんそっちを選ぶさ。でも、ストールマンとフリーソフトウェア財団の非常識な主張にはうんざりだね、と。

しかし、2012年が始まるや、オバマはNDAA for 2012に署名した。これにより、アメリカ市民は、テロリストの容疑だけで、裁判や何らの令状手続きなしに、無期限に拘束され得るのだ。そして、SOPAだ。これがもし通れば、何らの裁判や令状なしに、Webサイトは消されるし、インターネットの通信を監視することも可能になる。さて、権力者がオキュパイ運動をなんとレッテル貼りしているか、テロリストである。さて、この先どうなるかは、明白である。

この動きを、中国や似たような全体主義国の傾向にみるのは、決して見当違いではない。アメリカ映画協会、すなわちMPAAでさえ、誇らしげに言っているではないか。中国、シリア、イランなどの国でうまくいっていることは、アメリカでもうまくいくに違いないと。中国のグレート・ファイアーウォールや似たようなフィルターシステムは、この自由であるべき世界に対して、実現可能な手法であると。

重要な点は、昔と違い、秘密警察と密告者によって通信を傍受しなくてもいいということだ。ただ、我々の使っているソフトウェアとハードウェアを支配すれば
いいのだ。我々のデスクトップPC、ノートPC、タブレット、スマートフォン、その他のあらゆるデバイスは、通信に使われる。リアルで体面すれば秘密を守
れると思っているのかい? ちょっと待ちたまえ。どうやって密会を取り持ったのかね? まさか電話で? ネットで? しかも、そのポケットやバッグに入っ
てる、常にネットワークにつながっている状態のデバイスはなんだい? 

これこそが、ストールマンが30年も我々に警告してきた脅威なのだ。それなのに我々は、私も含めて、彼を真面目に取り合って来なかった。しかし、世界が変
わろうとしている今この時、自分のデバイスで実行されているコードを検証できるということの大切さは、誰の目にも明らかである。もし、我々が、自分の所有
するコンピューターを検証することができなければ、我々は奴隷だ。

これこそが、フリーソフトウェア財団とストールマンの信条なのである。すなわち、非フリーなソフトウェアはユーザーの支配力を奪うものであり、結果として
深刻な脅威を引き起こすのである。特に今、我々はコンピューターに全てを依存しているのだから。ストールマンがこの事実を30年も前に気づいていたという
のは、驚嘆すべきである。彼の活動は正当化される。この30年に及ぶフリーソフトウェア財団の活動も正当化される。

そして、この2012年において、我々は以前にも増して切実に、フリーかつオープンソースなソフトウェアを必要とするであろう。去年、ベルリンで開かれたChaos Computer Congressにおいて、Cory Doctorowは「汎用コンピューターに来るべき戦争(拙訳:本の虫: 汎用コンピュータ戦争)」と題して、スピーチを行った。その中で、Doctorowは汎用コンピューターに振りかかる脅威、特に、汎用コンピューターに対するユーザーの支配力に対する脅威に対して警告した。著作権戦争など、本当の戦争の前哨戦に過ぎないのだ。

「ウォークマンの世代として、僕が老いたときには、補聴器が必要になることに納得している。もちろん、僕が体に装着するのは補聴器ではなく、コンピュー
ターである。僕が車に乗り込む時というのは、自分の体をコンピューターの中に押し込んでいるのだ。もちろん、補聴器も、僕の体の中に装着しているコン
ピューターだ。僕は、これらの技術に、何か秘密の機能が搭載されていて、僕の意志に反して動作の強制終了を拒否するようになっていないかどうかを確かめた
い。」

上記は、ほんの一部の引用である。コンピューターが聴覚や移動などのあらゆることを補助する世界では、自分の支配できないコンピューターなどもってのほか
だ。我々は内部動作を確認できる必要がある。我々が監視、検閲などなされていないように確認できる必要がある。我々は少し前まで、単なるパラノイアだと一
笑に付していた。しかし、近年の動きを見るに、もはやパラノイアではない。現実である

「未来の自由を守るためには、自分の使っているデバイスを検証できる必要がある。実行中のプロセスの検証と終了により、デバイスが自分に忠実なしもべであ
ると確証できる必要がある。コンピューターが犯罪者や諜報機関や規制派のための道具に成り下がってはならない。我々はまだ、敗戦しているわけではない。し
かし、我々はインターネットとPCを自由かつオープンに保つため、この著作権戦争に必ず勝利しなければならない。何故ならば、インターネットとPCは、将
来の戦争のための武器だから、これ無くして来るべき戦争に勝つことはできない。」

だからこそ、我々は、たとえiPhoneの方が気に入っていたとしても、Android(GoogleではなくAndroid)をサポートしたほうがよ
い。たとえWindowsを使っているとしても、Linuxをサポートしたほうがよい。たとえIISを使っていたとしても、Apacheをサポートしたほ
うがよい。フリーである、オープンであるというのは、単にかっこいいだけでなく、必要となる時代が来るのだ。

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