マックス・ウェーバー的にいえば,国家は暴力の独占装置であり,犯罪や侵略の抑止のために使われるべきものだ.しかし現実にはそれは様々に濫用される.
歴史上最初に現れる大きな国家はみな専制国家だった.そして専制君主は豪勢に暮らしハレムを持ち,人民の生殺与奪の権力を持ち,実際にそれを行使した.拷問,拘束,処刑,建設プロジェクト何でもありだ.(19世紀までにこのようにして殺された人の数の推計は133百万人から625百万人だそうだ)ピンカーは様々な専制君主の逸話を紹介している.
また君主側も安泰ではない.結局全ての権力を持っている君主のいる国家では平和裏に政権交代はできず,原則的には暗殺しかない.ピンカーは,サウルもダビデもソロモンも,ローマ皇帝は合わせて34人が,そして600年から1800年までのヨーロッパ君主の8人に1人が暗殺されたと書いている.
そしてやはり17~18世紀にかけてヨーロッパではこのような専制政治をやめるようになってきた.ピンカーは17世紀前半の清教徒革命では結局チャールズ1世は殺されたが,後半の名誉革命ではジェームズ2世は追放ですみ,18世紀のボストンでは「専制政治」とは「お茶に税金をかけること」になっていたと書いている.