客の男が果物屋の店先で主人と話し込んでいた。
そこに通りかかったのが,薄汚いボロを来た小さな男の子。
「おや?あそこを歩いているガキは,とんでもない間抜けでしてね」果物屋はくつくつと笑った。「話の種にちょっと実験してみるから,見ててくださいな」「おおい。トミー」果物屋は大声を張り上げた。「こっちだ。こっちに来い!」
トミーは,ぼんやりした顔つきでキョロキョロすると,やっと果物屋に気づいた様子で,のこのこと近づいてきた。
「な・・・なんですか。ウ・・・ウィリアムさん」果物屋は,釣り銭の中から汚い25セント貨と,キラキラ光る10セント貨を選ぶと,地面にポンと投げた。
「おい。トミー。お前の好きな方をやるぞ」トミーはしゃがみこんで,じっと二枚の貨幣を見比べていたが,手に取ったのは,キラキラ光る10セント貨の方だった。
1時間後。
客の男は,通りでトミーを呼び止めて,25セント貨を選ぶべきだったんじゃないかとアドバイスした。
トミーは,男の目をまっすぐに見つめると小さく微笑んだ。
「だって,おじさん。もし25セント貨を選んだら,それでもうお仕舞いでしょう?」