旅先で珍しい料理を味わうことが生きがいの男がいた。
何か面白い料理はないかと男は今回スペインにやって来た。
闘牛場の裏手にある小さなレストランでメニューを眺めていると、隣のテーブルにボーイがじゅうじゅうと音を立てて焼けるステーキを持って来た。
「お待たせ致しました。『闘牛士の魂』でございます」
見るとそのステーキはソフトボールよりも大きな丸い肉の塊が二つ。肉の表面は妙につるんとしていてどうもただのステーキではないようだ。興味をそそられた男はボーイを呼び止めて尋ねた。
「あれは一体なんの肉だい?」するとボーイはにやりと笑って、
「つい先ほどそこの闘牛場で倒された牛の睾丸、まあつまりその、タマタマでございます」
「ほう……そりゃ珍しい。是非私も食べてみたいな」
「申し訳ありませんお客様。この料理は一日一食だけなのです。もしよろしければ明日またお越し下さい。明日も闘牛がございますので」
「そうか、では頼むよ」男は予約をしてホテルへ帰った。翌日。腹を空かせた男はレストランに入り、早速昨日のボーイにオーダーをした。
間もなくじゅうじゅうと焼けた鉄板が運ばれて来た。「お待たせ致しました。『闘牛士の魂』でございます」
しかし昨日とはうって変わって二つの肉はウズラの卵くらいの大きさになっている。男はボーイに向かって言った。
「どういうことだ?昨日と全然違うじゃないか!」
するとボーイは悲しそうな顔をしてこう言った。
「お客様……闘牛は、いつも牛が負けるとは限らないのです」