殷の紂王が、はじめて象牙の箸を作った。それを知った家臣の箕子が恐れを抱いた。象牙の箸を何故そこまで恐れるのか分からない周囲の者たちに、箕子が語った。 「象牙の箸を使うとなれば、(今まで用いていた)素焼の器などではなく玉(翡翠)の器や犀の角の杯を用いたくなるだろう。象牙の箸に玉の器で食事をするとなれば、(今まで食していた)豆の葉やアカザの汁などではなく水牛や象や豹の肉が盛られるだろう。豪華な食器に豪華な食事をするとなれば、粗末な衣服と粗末な家屋では満足できずに錦の衣服と豪華な宮殿が欲しくなるだろう。象牙の箸に釣り合うものを集めていけば、いずれ国中の財物を集めても足りなくなる。私が怖いのはその行きつく先だ。だから象牙の箸を恐れるのだ」