1970年代の米国で、政府が乗用車のメーカーに課す燃費基準を厳格化した時、どのようなことが起きたかを振り返ってみよう。

 燃費基準を厳しくするというアイデアは、素晴らしいものに思えた。ガソリンの消費量と有害物質の排出量を減らすためには、まず自動車メーカーに燃費基準を課し、実際に販売される乗用車がその基準を遵守しているかどうかを調べ、その後、基準を段階的に引き上げていくことで、自動車メーカーに燃費効率の改善を迫る――これでうまくいくはずだった。

 ところが、実際はそうならなかった。その原因は、乗用車に対してライトトラックよりも厳しい燃費基準が課されたことにあった。このような規制が導入された結果、自動車メーカーは当然のことながら、乗用車よりも、ライトトラックに分類される車種、具体的にはSUVや小型トラックの生産に力を入れるようになった。

 この方向転換はきわめて大掛かりなものだった。1970年代、米国の新車販売台数に占めるSUVおよびトラックの割合は3%だったが、2020年代前半にはその割合が50%を突破している。

 これにより、想定外の結果がもたらされた。有害物質の排出量は、期待されたほど減らなかったのだ。そればかりか、大型の自動車が小型の自動車と衝突する事故が増えて、交通事故による死傷者数が増加した。

更新情報知らせます はい 不要