チェスは急速に普及したのは、いまから500年ほど前のことだ。動きの遅いひとつの駒を現在の強力なクイーンの役に昇格させることで、欧州のプレイヤーたちがゲームに活気をもたらしたことがきっかけである。
また1996年には、チェスの神童から“逃亡者”になっていた元世界チャンピオンのボビー・フィッシャーがアルゼンチンのブエノスアイレスで記者会見を開き、コンピューターを用いた記憶に頼る代わりに創造性を促すようチェスを設計し直す必要があると訴えた。これはIBMのスーパーコンピューター「ディープブルー」が当時のチェス世界チャンピオンのゲイリー・カスパロフを倒す1年前のことである。
このときフィッシャーが発表した「フィッシャー・ランダム・チェス」は、従来のルールを踏襲しながらも、1列目に置く強い駒の初期配置をゲームごとにランダムに決められるようにしたものだ。「チェス960」という呼び名でも知られるフィッシャー・ランダム・チェスは、徐々にチェス界で地位を獲得し、現在ではこのルール専用のトーナメントも開催されるようになっている。