銅には抗菌作用がある。手指で触ったり、くしゃみをしたりして飛散した病原体が銅の表面に付着すると、銅イオンが放出される。このイオンが細菌の細胞膜に穴を開けたり、ウイルスの膜および内部のDNAとRNAを破壊したりするのである。
その際にこうした病原体が突然変異する可能性もないので、病原体が銅への耐性を獲得することも不可能になる。結果的に銅合金は、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)などのスーパー耐性菌を死滅させることができる。
古代のエジプトやバビロニアの兵士は、青銅(銅とスズの合金)の剣を研いだあとにできたやすりくずを傷口に塗り、細菌感染を予防していた。古代の中国やインドでは、病気やけがの治療に銅が用いられていたという。
また、ギリシャのヒポクラテスやメキシコ先住民のアステカ族は、酸化銅や炭酸銅をオリーヴのペーストや蜂蜜と混ぜ、皮膚感染症の治療薬として用いていた。1832年と49年、52年にパリで発生したコレラのエピデミック(局地的な流行)の際、パリ市内の銅精錬工場の労働者にはコレラに対する免疫があることもわかっている。
日本では数十年にわたり、水虫の治療に銅繊維の靴下が使われている。銅は抗真菌性であるうえ、抗菌性、抗ウイルス性でもあるからだ。