鉄鋼とは鉄のことで、そこに少量の炭素を追加して強度を増す。小さな炭素原子が大きな鉄原子のあいだに入り込むことで、密度と延性が高くなるのだ。
地殻の5%(重量)を占める鉄は、比較的簡単に見つかるが、岩石に含まれる金属は他の元素と混ざり合っている。剣やエッフェル塔をつくるには、それらを純粋はかたちで取り出さなくてはならない。
鉄原子は、ジグソーパズルの隣り合ったピースのように、酸素原子と固く結びついている。鉄原子2個と酸素原子3個から成る酸化第二鉄(Fe203)は、いったん結びつくと引き離すのが難しい。酸化第二鉄は──水があれば、裸の鉄原子が空気中の酸素に付着して錆を発生させるほど──簡単に形成される。
5000年前、古代エジプト人は鉄でビーズをつくっていたが、その金属は隕石から採取したもので、地球外の未知のプロセスによってすでに酸素から分離されていた。
紀元前2000年ごろ、おそらくは偶然に、鉄分を含んだ岩石、つまり鉱石を炭火で加熱すると可鍛性が得られることがわかった。
高温になると、酸素原子を掴んでいた鉄原子の力が緩むからだ。酸素は木炭の炭素と結びついてCO2となり、空気中に霧散する。あとに残るのは、精製された、つまり「還元された」鉄である。